年度初めの預金残高は500万円、年度末の預金残高は600万円、だから今年度の利益は600万円-500万円=100万円。
このようにお考えになる方がいらっしゃいます。
たしかにすべての取引が現金取引であればこのお考えに異は唱えません。
でも、実際は売上代金は数か月後に入金されたり、逆に支払代金を数か月後に支払ったりしますよね?
そうなると、現金預金の増加額=利益になることはまずありません。
すべての取引が現金取引であれば
と条件をつけましたが、すべての仕訳の相手勘定科目が現金預金であればと言い換えることができます。
なぜか?
300万円で仕入れたものを400万円で販売した例で仕訳を考えると、すぐにおわかりいただけます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 3,000,000 | 現金預金 | 3,000,000 |
現金預金 | 4,000,000 | 売上 | 4,000,000 |
【現金預金の増減額】 ▲300万円+400万円=+100万円 | |||
【損益】 売上400万円-仕入300万円=+100万円 |
現金預金の増加額が利益の金額と一致しますね。
もっと複数行の仕訳となったとしても、すべてが現金預金を相手科目とした仕訳であれば、この一致は変わりません。
でも、現実の取引では
すべての仕訳の相手勘定科目が現金預金となることは、可能性として0.00…%です。(言い過ぎ?)
仕入や売上をツケ(掛仕入、掛売上)にしたり、お給料から社会保険料や源泉所得税を天引きしたり、減価償却費を計上したり…、こういった仕訳では相手勘定科目が現金預金とはなりません。
実際に実例で見てみましょう。
実例その1
300万円で仕入れたものを400万円で販売。ただし、仕入は現金払い、売上は1ヶ月後の入金とすると、次のような仕訳になります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 3,000,000 | 現金預金 | 3,000,000 |
売掛金 | 4,000,000 | 売上 | 4,000,000 |
【現金預金の増減額】 ▲300万円(売掛金は入金まで、現金預金の増加と認識できない。) | |||
【損益】 売上400万円-仕入300万円=+100万円 |
現金預金の増加額が利益と一致しませんね。
売掛金の入金があれば、
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 4,000,000 | 売掛金 | 4,000,000 |
という仕訳が切られ、トータル期間でみれば現金預金の増加額=利益となります。
しかし、この入金が年度をまたいで行われたときには、決算書には売掛金が残るため、その年度においては現金預金の増加額が利益と一致することはありません。
実例その2
現金取引で、300万円で仕入れたものを400万円で販売。また、社員に給与を80万円(社会保険と源泉所得税を合計19万円控除)支給するという場合の仕訳を考えてみます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 3,000,000 | 現金預金 | 3,000,000 |
現金預金 | 4,000,000 | 売上 | 4,000,000 |
給料手当 | 800,000 | 預り金 | 190,000 |
現金預金 | 610,000 | ||
【現金預金の増減額】 ▲300万円+400万円▲61万円=+39万円 | |||
【損益】 売上400万円-仕入300万円-給料手当80万円=+20万円 |
実例その1と同様に、預かった社会保険や源泉所得税の納付をすれば、トータル期間では現金預金の増加額=利益となります。
しかし、その納付が年度をまたぐと上記の仕訳のとおりで、その年度において現金預金の増加額が利益と一致することはありません。
実例その3
現金取引で、300万円で仕入れたものを400万円で販売。また、備品を75万円で購入し、その減価償却費を16万円計上するという場合の仕訳を考えてみます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 3,000,000 | 現金預金 | 3,000,000 |
現金預金 | 4,000,000 | 売上 | 4,000,000 |
備品 | 750,000 | 現金預金 | 750,000 |
減価償却費 | 160,000 | 備品 | 160,000 |
【現金預金の増減額】 ▲300万円+400万円▲75万円=+25万円 | |||
【損益】 売上400万円-仕入300万円-減価償却費16万円=+84万円 |
備品の購入金額を一気に減価償却できるのであれば、現金預金の増加額=利益となります。
ただ、それができるのは購入金額30万円未満の資産など限られた要件を満たすもののみ。基本的には、耐用年数にわたって費用計上を行っていくので、この仕訳のように現金預金の増加額が利益と一致することはありません。
今回のまとめ
以前担当していたお客様が、私が出した試算表の利益とご自身が想定されていた利益とが大きく違うことにかなり驚かれたことがあります。
お話を聞くと、その方はまさに現金預金の増加額=利益とお考えになられていたのです。
再三再四そうはならないことをご説明差し上げたのですが、理解していただくのにかなりの時間を要しました。(こうだ!)と長い間思っていたことを完全に払しょくするのはなかなか難しいですよね。
お金の動きに目を光らせることは経営者にとってとても重要なことです。お金がないと事業は回りませんから。
ですが、現金預金の増加額=利益と理解されると、蓋を開けてビックリ!
利益が思っていた以上に出ていたり、利益だと思っていたら赤字になっていた…といったことが起きないとはかぎりません。
ここまでお読みいただいて、
預金残高の増加額=利益とはならない!
ということはご理解いただけかと思いますが、最後に今一度ご確認ください。
ジル観察日記
どら焼きを一口食べたら、ネコが出てきた!!