新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、資金繰りに悩まれる方が増えています。
先日ご相談いただいた3月決算の法人様は、新型コロナウイルス感染症特別貸付の審査結果を待っている段階なのですが、
「お金を借りることができても運転資金がカツカツなのは変わりがなくて、5月末にきっちり納税できるかわからない」
と仰っていました。
おそらくこのような不安をお持ちのことが多いと思いますので、今回の記事では、納税ができない場合の対処方法についてお話しします。
※ちょっと前から欲しかった成城石井のいちごバターをようやくゲット!!
目次
絶対にしてはダメなこと
をまずはお伝えします。
無断で滞納し続けること
これは本当にダメです。
無断で滞納し続けると、どうなるの?
税務署から督促状が届きます。また、電話によるお尋ねがあります。
「面倒くさいなあ」と思って、これらを一回無視しても繰り返しの電話や督促状、そして最終の催告書が届きます。
それでも完全無視を貫き通し続けると、税務署は最終手段として財産差押えの強硬策に打って出ます。
実際に、かつて取引のあったお客様がこのパターンで預金口座の差押えに遭い、さらに売上先にそのお客様へ代金の入金をしないようにとの通告(売掛金の差押え)がなされたことがありました。
「差押えまでするなんてひどい!」と思われるかもしれませんが、下記のとおり、法律に明記されたれっきとした正当な手段です。むしろ、差押えに遭うまで何もしなかった自分が悪いと思うべきです。
(滞納処分)
第四十条 税務署長は、第三十七条(督促)の規定による督促に係る国税がその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納されない場合、第三十八条第一項(繰上請求)の規定による請求に係る国税がその請求に係る期限までに完納されない場合その他国税徴収法に定める場合には、同法その他の法律の規定により滞納処分を行なう。【引用規定】国税通則法第40条
(差押の要件)
第四十七条 次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。
一 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。
二 納税者が国税通則法第三十七条第一項各号(督促)に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき。
2 国税の納期限後前項第一号に規定する十日を経過した日までに、督促を受けた滞納者につき国税通則法第三十八条第一項各号(繰上請求)の一に該当する事実が生じたときは、徴収職員は、直ちにその財産を差し押えることができる。
3 第二次納税義務者又は保証人について第一項の規定を適用する場合には、同項中「督促状」とあるのは、「納付催告書」とする。【引用規定】国税徴収法第47条
※補足
国税徴収法第47条は、第五章 滞納処分のなかで設けられた規定です。
苦しいけれど何とかして払うために
考えられる手段としては、
1.換価の猶予
2.納税の猶予
3.1.と2.によらない分割納付
です。
換価の猶予
換価とは、すでに差押えられた(あるいは、これから差押えられる可能性のある)財産を公売により金銭に換えることを言います。
その換価を猶予し、分割納付を認めるというのが換価の猶予です。
換価の猶予の対象者
誰でも換価の猶予を受けられるわけではなく、以下の6つの要件すべてに当てはめる方のみが対象となります。
① | 納付すべき国税を一時に納付することにより、その事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められること |
② | 滞納者が納税について誠実な意思を有すると認められること |
③ | 滞納者から納付すべき国税の納期限から6月以内に換価の猶予の申請書が提出されていること |
④ | 納付すべき国税について納税の猶予の適用を受けている場合でないこと |
⑤ | 原則として、換価の猶予の申請に係る国税以外の国税の滞納がないこと |
⑥ | 原則として、換価の猶予の申請に係る国税の額に相当する担保の提供があること |
換価の猶予を受けるための手続き
納付すべき国税の納期限から6か月以内に、以下の書面を提出しなければなりません。
●財産収支状況書(猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合は、財産目録及び収支の明細書)
●担保提供書
・担保が有価証券や金銭の場合の書式と添付書類
・担保が不動産や動産の場合の書式と添付書類
・担保が保証人の場合の書式と添付書類
猶予期間
原則1年間ですが、やむをえない理由により分割納付が困難な場合にはさらに1年間延長されることがあります。
換価の猶予の主な効果
・猶予期間中は、換価が猶予され、また、原則的に新たな差押えが停止されます。
・すでに差押えに遭っている財産がある場合、差押えを継続することにより納税者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると判断されると、その差押えが解除されます。
・延滞税の一部が免除されます。
納税の猶予
以下のような事案(猶予該当事実)が発生した場合には、納税を猶予し、分割納付を認めるというのが納税の猶予です。
・納税者やその親族が病気にかかり、又は負傷したこと
・納税者が事業を廃止し、又は休止したこと
・納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと
・所有財産につき、震災、風水害、落雷、火災など災害を受け、又は盗難にかかったこと
納税の猶予の対象者
誰でも納税の猶予を受けられるわけではなく、以下の4つの要件すべてに当てはめる方のみが対象となります。
① | 納付すべき国税を一時に納付することにより、その事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められること |
② | 滞納者から納税の猶予の申請書が提出されていること |
③ | 相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用をける場合でないこと |
④ | 原則として、換価の猶予の申請に係る国税の額に相当する担保の提供があること |
換価の猶予、納税の猶予の対象者に関する各要件は、国税庁の事務運営指針で詳しく解説をされています。
換価の猶予…20 申請による換価の猶予の要件
納税の猶予…4 通常の納税の猶予の要件
とはいえ、なかには理解するのに複雑な要件や必ずしも当てはまっていなくてよい要件もあります。したがって、実際に申請をお考えの場合には、ご自身が要件に当てはまるかを顧問税理士や税務署にご確認いただくことをおすすめします。
納税の猶予を受けるための手続き
通常の納税猶予を受ける場合には、明確な提出時期は定められていませんので、納付が困難になったときに、以下の書面を提出することとなります。
※災害により財産に相当な損失を受けた方が、納期限の到来していない国税について納税の猶予を受ける場合などは、提出書類や提出時期が異なります。
●猶予該当事実を証明する書類
災害等を受けた場合 | り災証明書等 |
病気等の場合 | 医師による診断書、医療費の領収書等 |
事業の休廃止等の場合 | 廃業届、商業登記簿の登記事項証明書等 |
事業上の著しい損失の場合 | 調査期間及び基準期間の損益計算書等 |
●財産収支状況書(猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合は、財産目録及び収支の明細書)
●担保提供書
・担保が有価証券や金銭の場合の書式と添付書類
・担保が不動産や動産の場合の書式と添付書類
・担保が保証人の場合の書式と添付書類
●納税の告知がされていない源泉徴収等による国税の猶予を申請する場合、所得税徴収高計算書
●登録免許税の猶予を申請する場合、登録等の事実を明らかにする書類
猶予期間
原則1年間で、その期間中に分割納付を行うこととなります。
また、やむをえない理由により分割納付が困難な場合には、さらに1年間延長されることがあります。
納税の猶予の主な効果
・猶予期間中は、督促や滞納処分がありません。
・すでに差押えに遭っている財産がある場合、差押えを継続することにより納税者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあったり、納税の猶予に係る国税の額に相当する担保の提供を行っていたりすると、その差押えが解除されます。
・延滞税の全部または一部が免除されます。
1.と2.によらない分割納付
換価の猶予や納税の猶予を受けるためには、お話しした要件を満たす必要があります。でも、この要件を満たさないからといって、どうにもならないわけではありません。
税務署の窓口で、分割納付を提案してみてください。
法律に則った措置ではないので、延滞税の免除、換価の猶予や差押えの解除といった効果はありません。つまり、延滞税も全額払わないといけませんし、また、すでに差押えに遭っている財産があっても、それは解除されません。
ですが、かなりの確率で分割納付の提案には乗ってくれますし、分割納付の計画どおりにきちんと納付をしていれば、新たな差押えに遭う可能性は低いです。(当然ですが、計画どおりに支払わなければ、、、ですよ。)
雑記
資金繰りに困ってしまい税金を支払えないことには同情しますが、納税は義務です。破産したとしても税金は免責されませんので、必ず支払わなければなりません。放っておけばいつかチャラになる、なんてことはありません。
なかには最初の督促状が届いた時点で恐れ戦いてしまう方もいるかもしれません。でも、税務署も鬼ではありません。納税の意思がある方には真摯に対応してくれますので、督促状が届いた時点で必ず連絡を入れるようにしましょう。
ジル観察日記
私の手を掴んで離さない。。。(汗)
追記(2020/5/11)
新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置が令和2年4月20日に正式に閣議決定されました。その措置のなかで納税の猶予制度の特例(特例制度)が設けられています。
・令和2年2 ⽉以降の任意の期間(1か⽉以上)において、事業等に係る収⼊が前年同期に比べて概ね20%以上減少している
・一時に納税を行うことが困難である
という要件を満たした事業者が、特例制度の対象となります。
特例制度の主な特徴は、以下の通りです。無条件に③④⑤と取り扱われることのインパクトは大きいと考えます。
① | 令和2⽉1⽇から令和3年1⽉31⽇までに納期限が到来する所得税、法⼈税、消費税、源泉所得税等ほぼすべての税⽬(印紙で納めるもの等を除く)が対象 |
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② | 猶予期間は1年 |
③ | 担保の提供は不要 |
④ | 延滞税は全額免除 |
⑤ | 猶予期間中は分割納付の必要はない。(猶予期間内における途中での納付や分割納付は可能) |
⑥ | 猶予期間終了後の一括納付が原則も、一般の納税の猶予により分割納付もできる。 |
特例制度の適用を受けるためには、令和2年6⽉30⽇または納期限(申告納付期限が延⻑された場合は延⻑後の期限)のいずれか遅い⽇までに申請を行わなければなりません。申請書は国税庁のホームページからダウンロードできますので、コチラをご参照ください。