【ミニ投稿】前職分の源泉徴収票がない場合の応急措置

中途入社の従業員は、前職分の給与等も含めて年末調整を行います。そのためには前職分の給与等がわかる書類が必要で、源泉徴収票を提出してもらうのが一般的です。

が、「源泉徴収票がありません。どうしましょうか?」と訴えてくる従業員さんがいるかもしれません。それを言われても困ってしまいますが、そんなときの応急措置をお話しします。

探す→ない→再発行してもらう

源泉徴収票がない理由が紛失の可能性であれば、まずは、「もう一度探してみてください。」と言うしかないです。従業員さんの家に乗り込んで探すわけにはいかないので、頑張って探してもらいましょう。

それでも見当たらない場合には、速やかに前の勤務先に再発行をしてもらうようにしてください。(探す過程をスキップして、いきなり再発行でもいいかもしれません。)

再発行してもらえない→税務署に頼るor給与明細で代用

問題はここからです。

すんなり再発行してもらえれば万事解決です。

しかし、「再発行はしない」と断られたり、そもそも最初から源泉徴収票を発行してくれなかったといったことがあるかもしれません。

所得税法第226条第1項では、給与の支払者は退職者に対して退職の日以後1ヶ月以内に源泉徴収票を交付しなければならない、と規定されています。源泉徴収票の交付は、給与の支払者に課せられる義務です。最初から発行しないというのは明らかな法律違反ですし、再発行の拒絶に関しても、この規定の趣旨を考えると逸脱した行為と考えられます。

なので、この規定を持ち出して再発行を請求してもらうべきですが、それでもダメならば、

源泉徴収票不交付の届出手続

を使う方法があります。

届出書を税務署(前の勤務先の管轄が理想です。)に提出することで、税務署から前の勤務先に源泉徴収票を交付するように行政指導が入ります。少し時間がかかるかもしれませんが、源泉徴収票を取得できる可能性はぐっと高まります。

しかし、そこまでするのはめんどくさいと感じたり、あとは、前の勤務先がすでに倒産してしまっているといったケースがあるかもしれません。

冒頭で、「前職分の給与等がわかる書類が必要で、源泉徴収票を提出してもらうのが一般的」とお話ししましたね。でも、源泉徴収票でなければダメとはどの法律にも書かれてはいません。前職分の給与等がすぐにわかるので源泉徴収票が理想的なのであって、たとえば、毎月の給与明細や賞与明細を集計して使用してもよいのです。よって、給与明細・賞与明細が残っていれば、それを提出してもらうというのも一つの方法です。

給与明細もない→前職分を含まない→確定申告してもらう

給与明細・賞与明細も残っていなければ、お手上げです。源泉徴収票不交付の届出手続をやってもらいたいですが、それもダメということであれば、前職分を含めずに年末調整を行うしかありません。そして、将来的源泉徴収票を入手することができた場合には、確定申告をしてもらいましょう。

「通帳に給与振込みの記録があるので、それを合計して含めるのはどう?」と思われる方もいるかもしれませんが、知りたいのは手取り額ではなく額面金額・差し引かれた社会保険料・所得税の額です。ですから、それは絶対にやめてください。下手をすると、不利な計算結果となり、従業員さんが不利益を被ることもあります。

もしかしたら前職分を含めないで年末調整を行うと、税務署や市区町村から「前職分を含めて再計算するように」との指導が入る可能性があります。しかし、そもそも前職分の給与等がわからないわけですから、その旨と税務署や市区町村で調べて再計算してほしい旨を回答しましょう。というか、そのように回答するしかないですね。

まとめ&本記事の関連法令

前職の源泉徴収票がない場合の応急措置をお話ししてきましたが、年末調整を行う時期になって初めてその事実が発覚するからバタバタするわけで、そういう意味で、入社時点で前職の源泉徴収票を提出しておいてもらうのが一番良い方法かもしれません。

所得税法

第二百二十六条 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(第百八十四条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)の規定によりその所得税を徴収して納付することを要しないものとされる給与等を除く。以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した給与等について、その給与等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより当該税務署長の承認を受けた場合は、この限りでない。